血液が酸性に?透析と代謝性アシドーシスの関係とは
腎臓の働きが低下すると、体内の老廃物や余分な水分がうまく排出されず、透析が必要になることがあります。透析患者さんにとって注意したい合併症のひとつが「代謝性アシドーシス」です。代謝性アシドーシスでは血液が酸性に傾くことで、倦怠感や吐き気に加え、全身の代謝バランスにも影響を及ぼします。
本記事では、代謝性アシドーシスの基礎知識から透析との関係、日常生活での予防法まで、一緒に確認していきましょう。
代謝性アシドーシスの基礎知識
代謝性アシドーシスは血液が酸性に傾いた状態です。アニオンギャップ(AG)という血液中のイオンのバランスを見る指標によって、AGが上昇するタイプと正常なタイプの2つに分類されます。
AGが上昇するタイプ(AG開大性アシドーシス)
腎不全や糖尿病性ケトアシドーシス、乳酸アシドーシスなどにみられます。体内に処理しきれない酸性物質が増え、AGが高くなります。
AGが正常なタイプ(高Cl性アシドーシス)
尿や消化管から重炭酸(アルカリ)が失われることで、相対的に塩化物(Cl)が増えるタイプです。尿細管性アシドーシスや下痢などが原因になります。
透析と代謝性アシドーシスの関係
腎臓は、体の中の酸性とアルカリ性のバランスを調整する重要な臓器です。腎不全が進行して腎機能低下が進むと、体内の余分な酸を尿中に排出する能力が低下します。血液が徐々に酸性に傾いた状態が、代謝性アシドーシスです。
代謝性アシドーシスは症状がほとんど出ない場合もありますが、骨密度の低下や筋肉の萎縮による筋力低下が出る場合もあり、進行すると倦怠感、吐き気、嘔吐、頻呼吸などがみられます。重度の場合は意識障害がみられることもあります。
透析は体内にたまった酸や老廃物を取り除くことが可能です。十分な透析を行うことで酸を効率的に除去できます。また、血液中の酸を中和するために重炭酸ナトリウムが使われることもあります。
代謝性アシドーシスを防ぐためにできること
代謝性アシドーシスは、自覚症状がないまま進行することもあり、重度になると命に関わる場合もあります。代謝性アシドーシスには次の予防対策が大切です。
透析スケジュールを守る
透析で老廃物や酸性物質を十分に除去することが大切です。透析の回数や時間は、透析患者さんごとの血液中のバランスを考えて調整されているため、決まった通りのスケジュールで透析治療を受けましょう。
食事の管理
たんぱく質を含む食品の摂りすぎは、体が酸性に傾きやすくなります。糖尿病も代謝性アシドーシスに関与するため、医師や管理栄養士の指導のもと、腎不全や糖尿病を配慮した食事管理を心がけましょう
重炭酸ナトリウムの補充
透析中の透析液にも重炭酸が含まれており、必要に応じて量を調整することもあります。血液中の酸が多い場合は、医師の判断で重炭酸ナトリウムを内服することがあります。
定期的な血液検査を受ける
代謝性アシドーシスは自覚症状が出にくいため、検査で早めに異常を見つけることが大切です。特にHCO₃⁻(重炭酸)の値や血液のpHは、酸塩基バランスを知る手がかりになります。
・「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書 慢性腎臓病
・小松先生式、CKDに伴う代謝性アシドーシス治療の実際
まとめ
透析患者さんとして注意したい合併症のひとつが代謝性アシドーシスです。自覚症状が出にくいまま進行し、重度になると意識障害など重篤な状態になる場合もあります。透析治療をスケジュール通りに受けること、食事管理をしっかり行うこと、定期的な血液検査で状態を把握することが、アシドーシスの予防と改善につながります。体調に大きな変化がなくても、気になることがあれば早めに医療スタッフに伝え、早期の対応につなげましょう。
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