透析患者の安全を守る!バイタルサイン観察のポイント
血液透析は腎不全患者の生命維持に欠かせない治療ですが、体内の水分量や電解質が短時間で大きく変化するため、血圧や血流が不安定になりやすいという特徴があります。そのため、透析前後や治療中における血圧・脈拍・体温などのバイタルサインの観察は、合併症を予防するうえで重要です。本記事では、透析中の主な観察項目と異常時の対応についてお伝えします。
透析患者におけるバイタルサイン観察の重要性
透析では短時間で大量の水分や老廃物を除去します。そのため、血圧や心拍出量などが急変しやすく、わずかな変動が血圧低下や心血管疾患の発症や悪化リスクにつながることがあります。
多くの透析患者は心血管疾患を併存しており、さらに高齢化によって変化に影響を受けやすい状態です。バイタルサインの継続的な観察は、状態変化を早期に捉え、適切な治療につなげるための重要な役割を果たします。
血圧・脈拍・体温など、透析中に観察すべき主な項目
それぞれの観察項目ごとに観察ポイント・注意点を整理します。
血圧
透析前血圧は前回からの体重増加や服薬状況が反映されるため、経過の中での変化を把握することが重要です。透析中は除水により低下しやすく、同じ体位・条件での測定が原則です。シャント側は避け、安静5分後に測定します。目標値は140/90mmHg未満が目安となりますが、個々の患者の年齢や合併症などの患者背景により調整します。
脈拍・心拍数
脈拍数とリズム、不整脈の有無を観察します。不整脈が疑われるときは1分間測定し、触診値とモニター値を照合します。透析中はカリウム変動による不整脈に注意が必要です。
体温
透析前・終了時・発熱時に測定します。発熱の背景には、シャント感染や透析液汚染、呼吸器感染などが隠れていることがあります。悪寒や倦怠感を伴う場合は、体温が上がる前でも注意が必要です。発熱時は医師へ伝えましょう。
体重
体重は除水量の基準となります。透析前後で測定し、体重増加がドライウェイトの5%以内か確認します。過剰な除水は血圧低下を、除水不足は高血圧や浮腫を招きます。
シャント音・スリル
聴診で連続音、触診で振動を確認し、減弱時は狭窄や閉塞を疑います。腫脹や熱感があれば感染の可能性もあるため、早めに医師へ伝えましょう。
その他
呼吸状態、意識レベル、皮膚や浮腫の変化など、数値に現れない異常も見逃さないことが大切です。
観察結果から考えられる異常と対応のポイント
透析中は体液や血圧の変動が大きく、わずかな変化が重篤な症状につながることがあります。以下が代表的な異常と対応のポイントです。
血圧低下
主に除水が多すぎたり、血管反応や心機能が低下していたりする場合に起こります。収縮期血圧が20mmHg以上、または平均血圧が10mmHg以上低下し、症状を伴う場合は注意が必要です。下肢挙上や除水の一時停止、生理食塩水の投与で改善を図ります。改善しない場合はドライウェイトや除水量の見直しを検討します。
血圧上昇
除水不足や降圧薬の中断、透析不均衡などが原因です。除水を強化し、透析液の温度を低めに設定します。服薬・塩分摂取量を確認し、必要時は医師の指示で降圧薬を使用します。
不整脈
透析中に不整脈が起こりやすくなるのは電解質の変動が要因の一つです。脈拍の乱れを感じたら、心電図を確認し、カリウム・カルシウム・マグネシウムを測定して、必要に応じて透析液のカリウム濃度を調整します。
発熱・感染
シャント感染やカテーテル感染、肺炎などが原因です。シャント部の発赤・腫脹・熱感を確認し、感染が疑われる場合は血液培養を実施し抗菌薬を開始します。全身状態に応じて透析を中止することもあります。
シャントトラブル
シャント音やスリルの消失は狭窄や閉塞のサインです。聴診・触診で確認し、血流量を測定し、異常があれば超音波検査を行います。
・K/DOQI Workgroup K/DOQI Clinical Practice Guidelines for Cardiovascular Disease in Dialysis Patients Am J Kidney Dis.2005;45(4 Suppl 3):S1-153
・千葉大学大学院医学研究院 血圧の管理
まとめ
透析中のバイタルサインの観察は、透析患者の状態異常を捉えるうえで欠かせない指標といえます。血圧・脈拍・体温のほか、体重やシャントの状態も総合的に観察し、異常を早期に発見することが大切です。日々の観察を通じて得られた情報をもとに迅速な対応を行うことが、合併症予防とQOL向上につながります。
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