透析に強い電子カルテとは?導入のメリットと注意点
多くの医療機関で電子カルテの導入が進む中、透析医療の現場では特にその必要性が高まっています。透析治療は、長期間にわたって多くのデータを管理し、医師、看護師、臨床工学技士など多職種が連携して進めるチーム医療です。紙のカルテでは、情報の記録・共有・活用に限界があり、スタッフの業務負担や医療安全の面で課題を抱える施設も少なくありません。
本記事では、透析に適した電子カルテの主な機能や導入のメリット、注意点について解説します。
透析医療に電子カルテが必要とされる理由
透析医療には一般外来とは異なる特徴があり、電子カルテの活用が効果的です。主な理由は次の4つです。
1.多くのデータを正確に管理
透析治療では、毎回4〜5時間にわたり、体重、血圧、透析条件(除水量、バスキュラーアクセス、透析液など)といった大量のデータを分刻みで記録・管理する必要があります。紙での管理は転記ミスや記録漏れのリスクが常に伴います。電子カルテは、情報を正確かつリアルタイムに記録・集約するために重要です。
2.チーム医療での情報共有
透析は、医師の指示のもと、看護師が穿刺やバイタルチェックを行い、臨床工学技士が透析装置を操作するなど、多職種が密接に連携する医療です。電子カルテを導入することで、全員が常に同じ患者の新しい情報にアクセスでき、指示の伝達や申し送りがスムーズになります。チーム全体の治療方針の統一が図りやすくなり、医療の質向上をめざせます。
3.医療安全への配慮
透析装置から送られてくる血流量や静脈圧などのデータを自動で取り込む機能は、手作業による転記ミスを根本からなくします。また、検査値の異常やアレルギー情報をアラートで表示する機能などもあり、ヒューマンエラーを防いで患者の安全を確保する上で大きな役割を果たします。
4.業務負担の軽減と効率化
手書きの記録や過去のデータ検索、月ごとのサマリー作成といった作業は、スタッフにとって大きな負担です。電子カルテはこれらの定型業務を自動化・効率化するため、スタッフはより専門的な知識や技術を要する患者へのケアに集中できるようになります。
透析電子カルテの主な機能
透析電子カルテには日々の業務を支えるための専門的な機能が搭載されています。
透析装置とのオンライン連携
透析装置が測定する血圧、脈拍、血流量、静脈圧、透析液温度などのデータを自動的にカルテに取り込み、グラフ化できます。
透析スケジュール管理
患者ごとの透析日程やベッド割り当て、スタッフ配置を一元管理できます。
透析ワークシート
透析前の体重測定やアセスメント、透析中のバイタルサイン、透析後の止血確認や申し送り事項などを、時系列に沿って効率的に入力できる専用画面です。
検査・処方の一元管理
定期的に行われる血液検査の結果を時系列で表示し、Kt/V(透析効率)やnPCR(タンパク異化率)などの指標を自動で計算・グラフ化します。
統計・サマリーの自動作成
月間の透析経過サマリーや、カンファレンス用の資料、学会発表や臨床研究に用いる統計データなどを簡単な操作で出力できます。
導入のメリットと注意点
透析電子カルテを導入するメリットと注意点についてお伝えします。
導入のメリット
医療の質の維持・向上
データに基づいた客観的な評価が可能となり、経験の浅いスタッフでもベテランと同様の視点で患者の状態を把握できます。これにより、施設全体の医療レベルの維持・向上をめざせます。
業務効率化による患者との時間創出
記録業務の時間が大幅に短縮されることで、スタッフが患者と向き合い、コミュニケーションやフットケアなど直接的なケアに充てる時間を増やすことができます。
ペーパーレス化によるコスト・スペース削減
紙カルテの保管場所が不要になり、印刷コストも削減できます。災害時のデータ保全という観点からも、電子化のメリットは大きいと言えます。
導入の注意点
導入・維持コスト
システムの導入には初期費用がかかり、月々の保守費用も発生します。費用対効果を十分に検討し、自院の規模や予算に合ったシステムを選ぶ必要があります。
スタッフへの十分な教育
電子カルテの操作に慣れるまでには一定の時間が必要です。導入前に十分な研修期間を設け、パソコン操作が苦手なスタッフも含めて全員がスムーズに移行できるようサポート体制を整える必要があります。
自院の運用に合ったシステム選定
電子カルテは製品によって機能や操作性がさまざまです。デモンストレーションなどを通じて、実際に使用する医師や看護師、臨床工学技士などの意見を十分に聞き、自院の業務フローに最も合ったシステムを慎重に選定することが重要です。
まとめ
透析医療の電子カルテは、透析装置と連携して多くのさまざまなデータを正確に管理し、多職種間の情報共有を円滑にします。医療の質と安全性を高め、スタッフの業務負担を軽減する治療支援システムです。導入にはコストや教育といった課題もありますが、運用を深く理解し、現場のスタッフとともにシステムを選定・活用することで、患者にとってもスタッフにとっても、よりよい透析医療環境を築くために役立つでしょう。
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