【ご家族向け】90歳の親に透析をすすめられたときに読む記事
90歳の親に人工透析をすすめられたとき、透析を受けるべきかどうか悩みますよね。本記事では、透析を受けている90歳以上の方の実態や、治療のメリット・デメリット、透析以外の選択肢についてわかりやすく解説します。本人の希望を尊重しながら人工透析の選択について、一緒に考えていくための情報をお届けします。
人工透析は90歳でも受けられる?
90歳以上でも人工透析の導入は決して珍しいことではありません。実際に90歳以上の人が人工透析を受けられています。
わが国の慢性透析療法の現況(2023年12月31日現在)によると、年齢、性別がわかる人工透析を受けている患者さんの総数は331,039人(男性221,604人、女性109,435人)です。
年齢と性別の割合データより、このうち、90~94歳の人は男性約4,875人(2.2%)、女性約4,377人(4.0%)、95歳以上の人は男性約665人(0.3%)、女性約657人(0.6%)となります。これらを合計すると、(男性5,540人、女性5,034人)です。 class=”yellow”>2023年時点で90歳以上の人工透析を受けている方の人数は約10,574人(男性5,540人、女性5,034人)です。
高齢だけが理由で人工透析が受けられないわけではなく、1万人を超える90歳以上の方が人工透析を受けています。
・わが国の慢性透析療法の現況(2023年12月31日現在) 第2章 2023年慢性透析患者の動態 図4慢性透析患者 年齢と性別,2023
90歳で透析をはじめるメリット・デメリット
わが国の慢性透析療法の現況(2023年12月31日現在)より、2023年に透析を導入した患者さんの数は36,115人(男性25,193人、女性10,922人)でした。そのうち、90歳の人は男性約756人(3.0%)、女性約557人(5.1%)、95歳以上の人は男性約76人(0.3%)、女性約44人(0.4%)です。
データより、2023年に90歳以上で人工透析を初めて受けた人の合計数は約1,432人いることになります。
90歳で人工透析を始めるメリット
人工透析の目的は、尿毒症による苦痛の緩和、生活の質(QOL)の維持・向上、腎不全による合併症の治療と予防、生命予後の延長などです。なかでも90歳以上の高齢者においては、人工透析の導入によって寿命を延ばすことよりも、尿毒症による倦怠感や呼吸困難、意識障害、食欲低下などの軽減や、その人にとって意味のある生活を継続するための導入が重視されます。
90歳以上で初めて透析を導入した方でも数年間にわたって人工透析を安定して継続され、その間、生活を楽しんで過ごされているケースも少なくありません。高齢というだけで判断するのではなく、本人の希望や生活背景に合わせた治療の選択が、その人らしい人生を送るための選択となる可能性があります。
・わが国の慢性透析療法の現況(2023年12月31日現在)図 14 導入患者 年齢と性別,2023
・小松康宏 高齢者に対する透析療法の工夫―治療法選択,透析条件・処方など― 日本透析医会雑誌 Vol.32(3).2017
90歳以上で人工透析を導入するデメリット
外来人工透析の場合は週3回、1回あたり約4時間の通院が必要です。通院や長時間の身体的拘束による身体的負担は大きくなります。また、通院手段の確保や通院介助による家族への負担などもあり、本人と家族の身体的、精神的な負担が生活の質に影響を及ぼすことがあります。
また、心機能や自律神経機能の低下がみられる場合、透析中の血圧低下や心臓への負荷の増大、認知機能の低下などのリスクもあるため、十分に配慮した設定での実施が必要です。認知症がある場合は、人工透析を受けること自体が難しいこともあります。
・小松康宏 高齢者に対する透析療法の工夫―治療法選択,透析条件・処方など― 日本透析医会雑誌 Vol.32(3).2017
意外に知らない透析以外の選択肢
通院して透析治療を受ける以外の選択肢として挙げられるのは、腹膜透析、在宅血液透析、腎移植、保存的腎臓療法などです。
腎移植は腎臓の機能を回復でき、長期的な生活の質を高める可能性がありますが、外科的手術と免疫抑制療法が必要であり、高齢の患者さんでは適応が限られます。
在宅血液透析は、医療機関に通院せずに自宅で人工透析を行えますが、ご本人とご家族が透析装置の操作や管理方法を学び、機材を置ける環境も必要です。一方、腹膜透析も自宅で行うことができる治療法です。お腹の中に透析液を出し入れして老廃物を取り除く方法で、通院は月1回程度と少なく、専用の大きな機材を必要としません。90歳以上の方でも腹膜透析を行われている方はいらっしゃいます。
保存的腎臓療法は、人工透析を行わずに、尿毒症による吐き気や呼吸困難などの症状は薬物治療でやわらげながら食事療法や運動療法、これまでの薬物治療を続けて生活を送る方法です。高齢の腎不全患者さんの場合には、本人の生活の質や希望を尊重したうえで、保存的腎臓療法を選択するケースもあります。
まとめ
90歳以上で人工透析をはじめる場合には、人工透析を受けることで、本人が苦痛に感じる場合や生活が制限されてしまう場合などもあります。生活の質が低下すれば、本人にとってそれは望ましい結果とはいえない可能性もあります。
90歳以上で透析を開始するかどうかは、病状だけでなく、本人がどのような生活を望むか、何を大事にして過ごしていきたいかをふまえ、総合的に判断することが大切です。本人の希望や家族の思いも含めて主治医とよく相談しましょう。
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