透析患者の肌トラブルとスキンケアの基本
透析治療を受けている方の多くが、皮膚の乾燥やかゆみといった肌トラブルに悩まされています。これらの症状は日常生活の質(QOL)を低下させる要因となります。
本記事では、透析患者さんにみられる肌の乾燥や乾燥による肌トラブル、日常生活で実践できるスキンケアの基本についてお伝えします。
なぜ、透析患者の肌は乾燥しやすいのか?
透析患者さんの肌の乾燥が起こる原因として考えられているのは、次のような複数の理由からです。
- 透析による体内の水分除去
- 水分摂取制限による肌への水分不足
- 汗腺・皮脂腺の萎縮
透析治療や日常的な水分制限のほか、透析による日本皮膚科学会の皮脂欠乏症診療の手引きによると、透析患者さんでは「皮脂欠乏症は90%以上で認められる」1)とあります。汗腺や皮脂腺の萎縮により、皮膚表面の水分や皮脂が減少し、肌が乾燥しやすくなると考えられます。
乾燥によって起こる肌トラブルとは?
透析患者さんの多くが経験する肌の乾燥は、かゆみを引き起こす原因の一つです。皮膚の水分や皮脂が不足し、保湿機能が低下することで皮膚のバリア機能が低下します。外部からの刺激に対する抵抗力が弱まり、かゆみを生じやすくなると考えられています。
日本では透析患者さんの約35~75%にかゆみの症状がみられるとあり、実際に450名の透析患者さんを対象とした調査では、約65.6%がかゆみを自覚していると報告されました。2)睡眠障害やQOL(生活の質)の低下、精神的苦痛にもつながります。
透析患者さんは皮膚のバリア機能が低下していて角質層が剥がれ落ちやすい状態です。さらに衣服の摩擦やかゆくて掻くなどの外部刺激が加わることで皮膚が傷つきやすくなり、皮膚トラブルが起こりやすいと考えられます。
・2)野原ともい,永野伸郎,丸山雅美ほか 透析患者における皮膚水分量の特性ならびに痒みとの関係 透析会誌2014;47(10):637~646
透析患者さんは知っておきたいスキンケアの基本
透析患者が肌トラブルを予防・軽減するためには、保湿・清潔のバランスを心がけたスキンケアとバランスのとれた食事、十分な睡眠が大切です。透析患者さんが知っておきたいスキンケアの基本をお伝えします。
①保湿の徹底
透析患者さんでは肌が乾燥しやすく、角質層の水分量が減少しています。入浴後20分以内に保湿剤を塗ることで、失われた皮脂や水分を補い、うるおいを保ちやすくなります。使用する保湿剤は、自己判断で市販薬を選ぶのではなく、かゆみや乾燥が気になるときは必ず医師や看護師に相談し、肌の状態にあった適切な保湿剤で保湿を行うことが大切です。
肌の状態や季節に応じて、次のような保湿剤が使われることがあります。
- ワセリン:ややべたつきはあるものの、長時間皮膚を保護できるため、特に冬場に適しています。
- ヘパリン類似物質を含む保湿剤:保水性・浸透性に優れており、肌になじみやすいのが特徴です。
- ビタミンAやEを含む軟膏(ユベラ軟膏など):皮膚にひび割れがある場合に使用される場合があります。
①皮膚の清潔を保つ
清潔保持は常在菌の繁殖を予防するために大切です。石けんを使うと皮膚の垢や汚れ、皮脂を除去できますが、石けんの使いすぎや肌を強くこすると皮脂が落ちすぎてしまうので気をつけましょう。
③ 衣服や寝具の選択
皮膚への刺激を抑えるために、肌に触れるものはウールやナイロンなどの化学繊維は避け、綿素材などの肌にやさしいものを選びましょう。肌に触れる部分がけばだっていると刺激になります。衣服は洗濯後にしっかり水ですすぎ、洗剤に含まれる化学物質を落とすことも重要です。睡眠時に肌に直接ふれるシーツや肌掛布団は綿素材を選び、肌の刺激や乾燥につながる電気毛布や電気あんかなどの使用は避けましょう。
④ 室内の湿度管理
室内の過度な暖房は部屋が乾燥します。エアコンで部屋の温度を下げすぎると汗をかきにくくなり、皮膚の乾燥につながります。加湿器の使用や換気で適切な温度や湿度を保ちましょう。
⑤ 生活習慣の見直し
皮膚のバリア機能が適切に働くためには、バランスのよい食事をとり、身体に必要な栄養やビタミンを補給することも大切です。皮膚の新陳代謝を促すためにも睡眠を十分にとりましょう。かゆみをやわらげるためには精神的なストレスの軽減も意識しましょう、
まとめ
透析患者さんは透析治療や水分制限により、体内の水分が少なくなりやすく、皮脂の減少から肌が乾燥しやすい状態です。乾燥はかゆみや肌トラブルの原因となり、生活の質を低下する原因にもなります。
医師の指導にもとづいた保湿や清潔保持、肌への刺激の少ない衣服や寝具の選択、室内の温度・湿度管理、食事や睡眠の見直しなどを行い、肌の乾燥やかゆみが気になる場合は、早めに医療スタッフに相談しましょう。
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